臨床脳電位研究会からのお知らせ
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代表世話人長谷川和夫が読売新聞の論点に寄稿
代表世話人長谷川和夫が読売新聞の論点に寄稿
論点
認知症診断に新手法
「医工連携」高齢化社会支える
長谷川 和夫 氏
聖マリアンナ医科大学特別顧問。同医大学長を経て現職。82歳。
最近、ひんぱんに聞く言葉に「連携」がある。現代社会には、連携しなくては解決できない課題が多いのも事実だ。医学と工学の「医工連携」もその一つである。
私は認知症を中心とする高齢者医療に関わっているが、近年、認知症の診断に、NATと呼ばれる新しい手法が工学者の手によって開発された。ニューロン(神経細胞)の活動状態を電気的にみて、コンピューターで解析し、三次元の脳画像に表示する方法だ。
これまで脳の病気は、磁気共鳴画像(MRI)などによる画像診断で、病変を発見する方法が主流だった。NAT法なら、病変が生じる前に、神経細胞の活動の低下を調べて、脳機能の変化をとらえ、早期診断の可能性を広げる。検査費用が安くてすむ利点もあり、一部で臨床応用が始まっている。
認知症のリハビリテーションや音楽療法など、薬を用いない治療法を患者に試みて、効果を判定するのに活用する道もありそうだ。
このNATの開発と普及に情熱を注ぐ工学関係者の方々と研究をともにして、医工連携の重要性を強く感じるようになった。
医工連携が、これまで数多くの成果をあげていることは周知の事実である。アルツハイマー病にかかわるアミロイドたんぱく質が、脳内のどの部位に沈着しているかを可視化する方法など、技術革新はめざましい。高齢の患者にも使用する人工骨や人工関節なども、医工連携のわかりやすい成果だ。日本が直面する高齢社会を下支えするため、認知症分野に限らず、医工連携を推進することの重要性は明らかである。
ただし、異なる専門領域だけに、乗り越えなければならない課題もある。医、工いずれの領域も、研究者には連携の必要性の意識がさほど高くなく、ともに自分の領域に高いプライドを持っていることなどがある。自らの領域の専門用語を使い、相手の使う専門用語を理解しようという心がけは、残念ながら十分とはいえない。
医療は長年、医師の経験に委ねられる部分が多かった。その蓄積が重要なのはもちろんだが、一方で現代は、診断でも治療でも客観的証拠が求められる。多くの人を納得させる再現性、普遍性、客観性を、医療技術に持たせるには、工学的手法が大きな力となる。
医工連携の推進には、市民の側からの声も大きな原動力となる。ITの発達で、国内外の医療情報が市民に伝わるスピードは格段に早くなった。負担の小さい診断法や治療法を求める市民の声が強くなれば、医学者や工学者の研究開発の意欲は高まるだろう。
もともと日本の技術水準は高い。しかし、先端的な医療機器の多くを海外に頼っており、大幅な輸入超過が続いている。国内の高い技術力を革新的な医療機器の開発に結びつける施策が求められる。
国の科学技術戦略立案は総合科学技術会議が担い、医工連携も重要なものと認識されている。国の方針として「大プロジェクト中心」という考え方があるのは理解できるが、それだけにとどまらず、たとえ小さくても横断的なプロジェクトにも目配りしてほしい。 医療は、病人と向き合って、ニーズに応える場であり、工学は、医療現場に先進的な理論に基づく技術を提供する。医、工の相互補完である「医工連携」こそが、新しい時代を創り出すと信じている。
